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鹸化反応の速さ(1) [石けんまわりの化学(3)] [├ 用語・材料・化学っぽいこと]

※石けん作りの過程でおこるいろいろな現象をちょっと真剣に考えてみるシリーズ※
実はバケガク不得意なワタクシ、かなり必死です。


■鹸化反応の速さ(1)

今回はトレースまでの鹸化反応についての話です。

・まずは反応の基本
石けん原料の油脂はグリセリン1分子に脂肪酸3分子がエステル結合した「脂肪酸トリグリセリド」というものです。
エステル結合 1箇所につき1分子の苛性ソーダ(NaOH)、つまり油脂1分子に対して3分子のNaOHが働いて、1分子のグリセリンと3分子の脂肪酸Naが生成します。アルカリ加水分解、鹸化反応です。

油脂(トリグリセリド) + 3NaOH → 3 脂肪酸Na + グリセリン

反応が起こるためには油脂のエステル結合部分とNaOHが衝突しなくてはなりません。
分子はそれぞれがランダムな熱運動をしています。意思を持って行き先を決めているわけではないのでうまく反応してほしいポイントに衝突できるかどうかは確率論の世界です。より多く、速く反応を進めるようにするにはより多くの衝突を起こさせなくてはなりません。
私たちはトレースを出すために石けんタネにいろいろなエネルギーや作業を加えますが、すべてはこの衝突回数を増やすことに捧げられているといっても過言ではありません。

・反応が起こる場所
石けん生地の中のどこで反応に至るような衝突が起こるのでしょうか。
油脂とは油そのもの。NaOHは水溶液の状態です。水と油は混ざり合わないので、油脂とNaOH水溶液をただ同じ容器に入れただけでは上下に分離してしまい、ほとんど反応は進みません。水と油の境目のところではかろうじてNaOHと油が接していて衝突できるので、時間を置けば境界で少しだけ薄い膜のように石けんが生成するでしょう。相と相の境目のことを界面といいますが、鹸化反応はこの界面で進行します。
界面の面積が大きければ大きいほど衝突できる可能性が高まります。


反応を進めるための因子

・攪拌
上述のように反応は油水の界面で起こるため、タネを強く撹拌し、油の中に水をよく分散させることで界面の面積が増え、より反応が進みます。とにかく混ぜること!
ブレンダーなどを使えば細かい粒子で分散させることができるため、トレースを早く出すことができます。

また、よく撹拌することで界面を更新することができます。界面が更新されるとは界面に存在する分子が後ろのものと入れ替わるということで、反応が終わった分子をどかして未反応の油脂を反応できる舞台へ登場させるようなイメージです。
上で境界面に膜のように石けんができると書きましたが、そのまま静置したのではこの生成した石けん膜が邪魔になって新しい油とNaOHは出会うことができません。

・温度(熱)
分子は熱運動をしています。ここでいう熱運動とは振動運動です。液体の中で分子は振動しながら動き回っており、温度が高いほど(熱を与えられるほど)運動が活発になるため衝突が盛んに起こるようになります。また温度が高いほど界面張力が小さくなり水と油が相互に混ざりやすくなります。


・乳化剤・アルコール
ミセルを形成して界面の面積を増やす効果のある乳化剤(界面活性剤)、あるいはアルコールなどの水にも油にも混ざる物質・界面張力を下げる作用のある物質を加えることで反応が促進されます。

界面活性剤はすなわち石けんそのもののことで、反応で生成した石けんが撹拌で分散した水滴の周りを取り囲んでミセルを形成・乳化して行くことで安定した界面の表面積が増えて反応がより進むようになります。また反応途中のジグリセリド、モノグリセリドにも乳化作用があります。
原料油にミリスチン酸などの単体脂肪酸を加えていれば優先的に中和反応が起こって石けんができ、トレースまでの時間を短縮することができます。またはじめの石けんタネにスターター(開始助剤)として石けんを少量添加しておくことでも同様の効果があるとのことです。(自分でやってみたことがないので、固形のまま入れてよいのか石けん水にすべきなのかちょっとわかりません)

※追記※アルコールはエステル交換反応によっても鹸化を促進します。昔から乳化促進が主な作用とされていたのですが、近年実験的にもエステル交換の作用が大きいことが確かめられました。根拠となるレポートをご紹介したいのですが、見つけたものは学会会員にならないと閲覧できないようで、全文を見ることができないでいます・・・。エステル交換反応は廃食用油からバイオディーゼルを作る方法とあわせて説明されていることが多いのでご興味ある方は検索してみてください。


水分やオプション等にアルコールが含まれているとトレースが早まる・・・どころかNaOH水溶液を入れる端から固まってしまった、という経験をした方は少なくないと思います。加減が難しい材料ですが、あらかじめトレースが遅いとわかっている油脂配合であれば撹拌を始めてある程度水と油がなじんできた頃にごく少量のエタノールを滴下することで時間短縮が図れます。


トレース←トレースの頃

鹸化反応は発熱反応ですから、反応することによってタネ自身の温度が上がり、また乳化作用を持つ成分が生成するのでどんどん反応が進むようになります。トレースとはある程度反応と乳化が進んで撹拌を止めても水と油が分離しなくなった状態の目安です。型入れ以降は撹拌で衝突機会を増加させることができなくなるため、熱運動だけが反応を進めてくれる力になります。反応率を高めるためには熱を無駄にしないような保温が重要です。
型出し後、固化した石鹸を約1ヶ月ほど熟成・乾燥しますが、この間にはもう鹸化反応は進まないと考えてよいでしょう。前回結晶の話を書きましたが、固体というのは分子と分子の間の結合力のほうが熱振動よりも強いために分子が周りの別の分子に束縛されて自由に移動できない状態で、未反応の油脂と遊離アルカリが石けんの中を移動してエステル結合部分で出会うことはほぼ不可能です。遊離アルカリは乾燥するにつれ空気中の炭酸ガスと反応して炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム・ソーダ灰)となり、苛性ソーダだったときよりもpHが下がります。


鹸化反応速度についてはもう少し続きます。
次回は脂肪酸の種類による違いの話です。


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もなこ

こんばんわ♪

毎回難しくてほとんど理解できてない私ですが
触れる機会が多くなってくれば
もしかしてこの固くなった脳でも理解できる事が増えてくるかも
と、勝手にがんばっています'v'

今回はざっと読みで少し分かるわ〜
私たちが何気なくやってる行為wはこんな風になってたのね〜

次回も楽しみにしてますよ〜





by もなこ (2008-08-31 19:04) 

ゆりくま

■もなこさん
説明ベタですいません。(1)(2)は見えない世界の話なので何がなんだか状態と思います。
今回はいつもやっていることの裏側的なことなので少し想像しやすいと思うのですが、振動運動って何よ、ってとこがカギかも・・・。

次回はもう少し図的に迫ってみたいと思います。
by ゆりくま (2008-08-31 23:19) 

むんむん

こんばんわです。

さすがゆりくまさん。
もぅ、最高です。
ゆりくまさんの『化学っぽいこと』の内容は
何度も何度も読み返してしまいます。

この内容が続くとは…
嬉しくて、たまらないです。

ミリスチン酸高配合や、アルコール飛んでないチンキで、
攪拌不足の心配がある、ポテポテ栗キントン状態のせっけんのタネ等?
通常のトロトロせっけんタネより、
『ポテポテしてて、型の中で放置じゃ分子動きにくい~。』
…とか、油脂とNaOHは型の中で言っているのかも知れない?
…いや、ポテポテ程度なら、分子は小さいから、余裕で動く?!
色んなこと考えてしまいます。

とりあえず、
型の中でギンギンにジェル化すりゃ平気!!マイルド!!…みたいな
安易な考えで放置してしまうことも場合もある石鹸タネは
何を思うのだろう…。

次回の記事も本当に楽しみです☆
ありがとうございました!









今後の記事を、すっごく楽しみにしています。
ありがとうございました。














by むんむん (2008-09-01 00:14) 

むんむん

あ、なんか変な風に送信してしまいました。
ごめんなさい。
…恥ずかしい。


by むんむん (2008-09-01 00:22) 

ボコ

ああ~、そうだったのですか。石けんタネを一生懸命
混ぜている時は、そんな現象がおきていたのですね~。
なんか納得です。
初めてアルコールを使った時は、ソーダ液は泡だって
溢れるし、あっと言う間に反応してカチカチになるしで
酷い有様でした。出来上がった石けんはモロモロの
マットな奴で、オプション酒粕(しかも溶け残りが沢山)の
せいでカビっぽくなってしまって、廃棄しました(゜ー゜;A
by ボコ (2008-09-01 11:46) 

ゆりくま

▼コメントありがとうございます。

■むんむんさん
空白の下に何かあるのかと・・・ワクワクしながらスクロールしてしまいました(笑)

ぼてぼてトレースでも温度があれば大丈夫!温かければ元気に動くことができます。
それよりも、いきなりぼてぼてになっちゃうタネは一気に熱を出してしまって冷めやすく、前回書いたようにゆっくり結晶を育てることに失敗しやすいのでなおさら熱心に保温してあげてください。

ミリスチン酸、そうそう、脂肪酸を加える話を書くことを完全に失念していました。ありがとうございます。
早速本文に書き加えておきました・・・。

■ボコさん
お酒に苛性ソーダを突っ込むのは色々面倒をまねきますよね。
私も沸騰させたことがあって、次は煮切って後入れにしようと心に決めているのですが、なぜかそういう機会が回ってきません。無意識に避けているのかも・・・。
(ウルトラ抽出のやりすぎで懲りているから? でもやるけど)

by ゆりくま (2008-09-01 20:20) 

よこやん

ゆりくま先生~こんばんわー。

石けんに限らず、化学反応とはこういうことですよね。
水と油だから、攪拌はけん化には必須の条件ですが、反応しやすいものは温めるだけでも反応は進みますしね。

なつかしの化学反応の脂肪酸+アルカリ=脂肪酸塩は反応式があったほうがわかりやすかったかもしれません。高校の化学にのっかているような皆さん見慣れた反応式だし。

でも、でも、これだけまとめられるのは本当にすばらしいですね。
私なんて、読みながら「そうなんだよね~。」なんてこんなコメントしているし。

何か気がついたことがあったらコメント入れますね。
続きが楽しみです。
by よこやん (2008-09-01 22:25) 

ゆりくま

■よこやんさん
そうですね、一般的な話です。でも考え方に慣れていないと想像するのはなかなか難しいかもしれませんね。

反応式、書きたかったんですが、図じゃなくテキストでトリグリセリドとグリセリンを表現する方法が思いつかなくて(1行では難しい~)、とりあえずお茶を濁してしまっています。でもやっぱりあったほうがいいですよね。
次回の記事のために図を作る予定なのでその時にあわせて作成しておきますね。
by ゆりくま (2008-09-02 18:42) 

zen

初めまして!
何度も訪問しながらも初めてコメントを書きます。私は手作り石けんを始めたばかりのウルトラ初心者で、くま先生の話はとても良い勉強になります。まだ理解できない難しい部分がほとんどでづけどね〜本当に感謝してます。これからもよろしくお願いします。
by zen (2008-09-14 15:30) 

ゆりくま

■zenさん こんにちは。ようこそです。
なるべく一般的な言葉を使うようにしているつもりですが・・・なかなかややこしくてすいません。
ここに書いてあることはいわゆる化学反応の起こりかたの基本みたいな話なので、なんとなくイメージできるようになると日常にある色々なこと、例えばお料理の途中で あっ!と思うようなことがあるかもしれません。
by ゆりくま (2008-09-14 23:22) 

toukikou

こんにちは。

12月31日が100バッチ目でしたが、最近は初心のようにソフトオイルの配合が多くなっています。
ハーブや中薬の成分が溶け込んだ苛性ソーダ水を使わないとトレースが遅く、寝る前には型入れしたいのでゆるトレースでも型入れしてしまいます。

でもこれをやると、石けんの固まり具合がよくないので、ゆるトレースで型入れするのなら無水エタノールを1滴ずつ様子を見ながら入れて硬いトレースを出した方がいいのかな、と思いました。

アルコールは界面張力を下げるので鹸化反応が進むということですが、アルコール分を熟成期間中に飛ばせる分量なら問題ないということですね。
by toukikou (2010-01-06 09:56) 

ゆりくま

■toukikouさん
ゆるトレースだと部分的にもそもそになったりしますね。
私も最近ソフトオイルの配合が多いです。

トレースのコントロールにアルコールを使いこなせるとずいぶん楽になると思います。ただ、レシピや作る人の混ぜ加減が違うのでこのくらいとはなかなか言い切れない部分があります。
コールドプロセスでは失敗すると型入れ不能になることを除けば、アルコールが入ることは石けん自体には何も影響ありません。商業的に作る場合は積極的に入れていることもありますし、透明石けんではかなりの量を溶媒として使います。
by ゆりくま (2010-01-06 23:02) 

urata

>型出し後、固化した石鹸を約1ヶ月ほど熟成・乾燥しますが、この間にはもう鹸化反応は進まないと考えてよいでしょう。

これって本当ですか?何か裏付けはあるのでしょうか?
固体中で進む化学反応もある(リチウムイオン電池など)ありますし、
石鹸は固体というよりゲルに近い物性を持っているように見受けられます。
含水もしていますよね。
石鹸結晶の形を知りませんが、石鹸結晶格子中に自由に動ける油分子・水分子が存在しているのではないでしょうか?
by urata (2013-04-04 07:22) 

ゆりくま

■urataさん

こんにちは。
受け売りですが、石けん結晶は一般的には層状のラメラ相になっているそうです。
乾燥中に鹸化が進むかどうか、確率がゼロではない事象はアリだという科学的見地に立てば、反応は起こるでしょう。ご指摘の通り型入れ後の反応ではフリーのイオンが重要な役割を果たすというのが現在の主流の考え方です。
上記のように書いたのは、発熱がおさまり室温まで冷めてきたようなステージでは反応率95%以上に達していると考えられ、仕込みが油脂過剰なのでほとんどのNaOHは消費されている状態で、残りのNaOHが消費される反応の中で何が優勢か?という観点から、鹸化の順位を下げた結果です。
先の科学的見地からは「鹸化反応は進みにくい」のようにする方がより正確ですね。
ご指摘ありがとうございました。機会を見て修正いたします。
by ゆりくま (2013-04-07 21:01) 

はるぴょん

オリーブ主体の石鹸を作っていた所
前回の反省も踏まえ、78度で1時間湯銭し
気泡も本当に細かいのがゆっくりしたペースで一か所出ている程度までし
温度も苛性ソーダ25度オイルも25度(オイルはボウルを冷やしすぎたのか
その後混ぜ合わせたところ22度くらいに下がっていてあわてて混ぜ合わせ
温度も上げたのですが、やはりオリーブオイルが90パーセントの石鹸で
中々トレースが出ず(分離しない程度にはもう混ざっているのですが)
そろそろ寝たいなと思い悩んでいたところ(笑)
スピリタスをスポイトで数滴たらしたところちょうどいい感じになりました。
これはデザインする場合にも使えるのかもと思いました。

オイルはやはり自然に下がるのを待つほうがよさそうですね。

その前にフランキンセンスパウダーウル抽の石鹸を作ったのですが
60度キープで保って30分程度で終わらしていたため
混ぜて1分でトレース5分でアウトっぽくなり途中ジェル化したように
透明な部分も出つつ気合で10分混ぜて丸めて作りました。

混ぜるのが大事だとは思いますがトレースが1分出て
そこで型入れをしたらどのようになるんでしょうか?(苛性ソーダ残留とか)
by はるぴょん (2013-12-09 02:29) 

ゆりくま

◼︎はるぴょんさん

トレースが早いタネは全体が均一に混ざっていないことがあり、発熱も早いのでタネの中の温度にもムラができやすくなっています。
それが原因のカット面のムラや端っこがボロボロになるというような現象が起こることがあります。
液体の分離がなければ、極端な苛性ソーダの残留ということはないと思います。普通のと同じように熟成してください。

by ゆりくま (2013-12-16 22:50) 

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