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ジェル化の正体(2) [石けんまわりの化学(8)] [├ 用語・材料・化学っぽいこと]

ジェル化の正体(2) [石けんまわりの化学(8)]

手作り石けんの過程で起こるいろいろな現象を少しまじめに考えてみるシリーズ
ご意見、ご感想はお気軽にコメント欄にお寄せください。わかりにくいことも極力補足できるようにいたします。
※10/20 回りくどいところを修正しました。



まず前回の要約

・コールドプロセスの手作り石けんが保温中に「ジェル化(ゲル化)」する現象は、含水石けんの「液晶化」によるものである。
・液晶状態の中でも「ラメラ」と呼ばれる相を形成している(石けん製造での用語ではニートソープに該当する、透明度と流動性がある相)。

引き続きどういう条件でこの液晶化現象が起こりやすいのかということについて考察していきます。
(長い説明が面倒な方は最後のまとめだけどうぞ)


■手作り石けんの中味

本題の相平衡図に入る前に私たちの手作り石けんの組成を見てみます。
レシピは様々ですが、代表例として以下のようなものとします。

---------------
オイル 500g (オリーブ油 70%、パーム油 15%、ココナッツ油 15% )
苛性ソーダ 65g(鹸化率 90%)、水分 175g (オイルに対して 35%) 合計 740g
---------------

混合オイルの脂肪酸組成はおよそこんな感じです。
ラウリン酸 7%、ミリスチン酸 3%、パルミチン酸15%、ステアリン酸 3%、オレイン酸 60%、リノール酸9%、その他3%

このレシピが100%反応した時の石けん型の中味は次のような組成になります。(多少オイルの種類や配合が変わったところで結果はあまり変わりません)
石けん
水分
グリセリン + 未反応の油分
(モノ、ジ、トリグリセリドの混合)※
467g (63.1%)
175g (23.6%)
98g (13.3%)
.

(※ グリセリンとトリグリセリドのみと仮定すれば、グリセリン48g、油分50g)

相平衡図は石けんと水の2成分系をあらわしているため石けん分と水分だけの比率に着目すると 石けん 73%、水分 27% になります。
グリセリンや未反応の油分がどのように作用するかははっきりわからないのですが、基本的にやわらかくなる方向だろうと推測すると、水側に足しておくほうがよさそうです。
したがって石けん分70~60%、水分その他30~40%のあたりで相平衡図をみることにします。


■相平衡図から分かること

石けんを含む一般的な両親媒性の界面活性剤は温度と水分量の違いにより様々な状態(相)を形成します。ざっと分けると 固体結晶 ~ 液晶 ~ 液体・溶液 というところです。

温度と水分量を軸に図で表したものが下の【図1】です。

【図1】水-界面活性剤系の相平衡図
一般相図1.jpg※別の図との向きを合わせるために左右反転しています。オリジナルは こちら↓
一般相図2.jpg

上下が温度。左右は石けんと水分の組成割合を示しており、左端が石けん100%(無水)、右端が水100%、中間点は水と石けんが50%ずつになります。
赤くなぞった線(Tc)はゲル-液晶転移点といわれる温度で、その組成での融点/凝固点のようなものです。
高水分領域で臨界ミセル濃度(cmc)の線と交わる付近の温度が特にクラフト点(Kp)と言われます。

ある組成の石けんと水の混合物の温度を変えた場合、温度がTcより低い領域では含水の固体結晶ですが、Tcを超えると液晶状態あるいはミセル溶液状態になります。
組成の変化に着目すると、含水量が多いほど、つまり図の右側ほどTcが低くなることが分かります。

つまり・・・こういうことが読み取れます。

・同じ組成(水分量)のレシピなら、温度がTcより高い状態を保つと液晶化する。
・同じ温度を保った場合、水分量が多いほど液晶化しやすくなる。


■パルミチン酸とそのほかの脂肪酸

具体的な石けん成分として、パルミチン酸ナトリウムの場合を【図2】に示します。

【図2】パルミチン酸ナトリウム - 水 系の相平衡図
パルミチン酸Na相図.jpg

石けん80%(水分20%)より水分が多くなるところでTcがぐっと下がり、80℃あたりで横ばいになります。
上述の手作りせっけんレシピのように30~40%%含水のパルミチン酸石けんは80℃以上にすると液晶化(ジェル化)が起こると読むことができます。

残念ながら他の脂肪酸石けんの相平衡図を見つけられていないので、異なる脂肪酸あるいは混合組成でのジェル化目安温度は正確にはわかりません。しかし脂肪酸が変わっても図の形はあまり変わらないと考えれば、Tcがパルミチン酸Naより高いか低いかというくらいの相対的なことであれば脂肪酸Na毎のクラフト点から推測できます。
クラフト点はTc曲線の右の端のほうでぐっと温度が下がる直前の水平部分の温度です(【図1】参照)。
パルミチン酸よりクラフト点の低い脂肪酸石けんでは液晶化する温度も低くなり、逆にクラフト点の高い脂肪酸石けんなら液晶化する温度も高くなるでしょう。

【図3】クラフト点からの推測
一般相図3.jpg

下に代表的な脂肪酸のクラフト点を示します。
水溶性が高い不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)は他の飽和脂肪酸に比べてクラフト点が非常に低く、このような脂肪酸が多い石けんはジェル化しやすい温度が低くなる傾向にあると考えられます。

ただし注意しなくてはいけないことは、2種の脂肪酸Naの高水分領域にあるクラフト点の差が10℃なら石けん生地(水分の少ない領域)での液晶化温度も10℃違うというような単純なものではないということです。また一般的に石けんを構成する脂肪酸は混合であり、混合物は単純に比率を掛け合わせた分の性質を持つわけではないことはこの温度についてもいえることだと考えます。オレイン酸とパルミチン酸が50%ずつの組成だったからといって、ちょうど中間の温度でジェル化するわけでもありません。

脂肪酸ナトリウムのクラフト点
ラウリン酸Na
ミリスチン酸Na
パルミチン酸Na
ステアリン酸Na
オレイン酸Na
リノール酸Na
44℃
54℃
63℃
69℃
13.4℃
-5℃



■ジェル化のまとめ

「ジェル化とは、含水石けん結晶の液晶化である。」
「Tc (ゲル-液晶転移点:融点のようなもの))を越えると液晶化する」

ジェル化(液晶化)の要因と傾向
※あくまで相平衡図から読み取れる傾向であって、絶対ジェル化しない/すると保証はできません。。。 これから経験と観察を積み重ねて精度を上げていければと思います。

★水分
水分が多いとジェル化(液晶化)しやすくなる傾向がある: Tcが低下するため

私の経験からも、前田京子さんのレシピの水分量( オイルに対して38-39% ←オイル72%+水分28%の設定) はジェル化しやすい。
ただしその他のやりやすさも考えると最低ラインは25~30%くらいまで。
(海外の石けん本では「水分量が最も影響する。温度なんて勘違い!」と言い切っているものも。私はそこまで言い切る勇気がありませんが。。。)


★脂肪酸組成
石けんを構成する脂肪酸により液晶化する温度(Tc)が異なる。
各脂肪酸Naと水との混合物での詳細データは無いが、クラフト点の高低から傾向は推測可能と考える。
不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸に比べると極端に低いことから、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸が多くなるレシピではジェル化しやすい傾向にあると考えられる。

飽和脂肪酸の比率をコントロールしやすい原料油脂は不飽和脂肪酸が極端に少ないココナッツ油、パーム核油や単体脂肪酸(ステアリン酸やミリスチン酸)。パーム油、牛脂、シア脂など炭素数の大きい飽和脂肪酸で固さが出るタイプの油脂は案外オレイン酸含有が多い(50%前後)。


★温度と保温
石けんと水の混合物は、比較的石けん濃度が高い領域でゲル-液晶転移点[Tc]を超えると液晶を形成する。
Tcは脂肪酸組成や水分量によって変わるため一概に何℃とはいえない。(上述の通り)

※保温
結晶は(液晶にしても)ある温度に達したら瞬間的に出来上がるものではなく適温がある程度持続することで成長するもの。結晶が充分に成長した固形石けんは溶け崩れや膨潤が起こりにくい。逆に結晶が成長していないと溶け崩れが著しかったり、固いわりに粉っぽくカット時に崩れたりして扱いにくい。 (参照:「石けんの結晶[石けんまわりの化学(2)]」)
使いやすい石けんのためにはジェル化を経由する・しないにかかわらず、適度な保温で結晶を育てることが必要である。
そういう観点ではジェル化を経由した石けんは結晶構造がしっかり出来上がったのが見た目に示されているといえる。

反応中の石けんは内側から発熱している。
外気温にもよるが、ジェル化を避けるために全く保温しない、あるいは外から冷やすというのは石けんの外側と内側で最終的な反応率や結晶成長度合いの差が大きくなる(テクスチャが不均一になる)だけなのでおすすめしない。
型入れ直後の石けん生地は多少の流動性があるとはいえヤカンのお湯のようにダイナミックに対流しているわけではないので内部と外面との熱移動が非常に悪い。外から冷やしても中心部の温度上昇を阻止することは難しい。
中心部の温度を上げすぎないためには型入れ時のタネの温度を低めにするのがよい。
(ちゃんと反応を進めるため目安として30℃を切らないように)。


------------------------------

ジェル化(液晶化)の傾向についてのレポートはいちおう以上で終了です。

別の機会に、ジェル化にかかわるトラブルシューティング、相平衡図から読み取れるそのほかのことなど、派生したお話を書いていければと思います。

参考書籍---------------

■「油化学便覧 第4版 -脂質・界面活性剤-」日本油化学会編, 丸善 (2001)
■「新版 脂肪酸化学 第2版」 稲葉恵一 平野二郎 編著, 幸書房 (1990)


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ハタヤ商会

腰を据えて「石けんまわりの化学」シリーズを読み込もう!
と思っていたら、どんどん落ちこぼれてしまいました。

質問があるのですが上手くまとめられなくて…。
近々再びコメントします。

それにしても素晴らしい!
ゆりくまさんによる化学本欲しいです。
by ハタヤ商会 (2008-10-21 00:57) 

ボコ

う~む、ジェル化、ジェル化・・・。
私の石けんは一度だけ一部が透明っぽい物体に
なった以外は一度も遭遇していないんですよね~。
なるほど、水分量と温度ですか。。。
ジェル化にはあまり拘りがないので
してもしなくても、どちらでも良いのですけど
なんだかチャレンジしてみたくなりました!
by ボコ (2008-10-21 13:39) 

ゆりくま

▼ハタヤ商会さん、ボコさん こんにちは~。

■ハタヤ商会さん
うわー、AYAさんの質問って・・・ 私が上手く書けなくてはぐらかした所をズバッと突かれそうでドキドキする・・・

ホント、説明下手ですいません。まとめのとこだけにしとけばよかったと後悔してます。

■ボコさん
そうそう、それがジェル化です。
私はブレンダー使うこともあるし夏でもしっかり保温なのですが明らかにジェル化したことって本当に数えるほどしかないんですよね。水分は30%を基本にしているので、やはり水分の影響が大きいと思います。
いずれにせよ保温に成功した石けんのほうがしっかりしていて最後まで使いやすいと思いますよ。
by ゆりくま (2008-10-22 00:34) 

はるぴょん


牛乳などを入れると温度が上がるため
ジェル化しやすいとも聞いたことがあります。

以前牛乳パックで箱に毛布の時はジェル化したことなく
最近アクリルモールド(角がきれいなので)で発泡スチロールの時はします。

デザイン的にジェル化させたくない場合は
タネの温度は低めにすればいいんですね!

ジェル化した場合でも使用には問題がないということですよね?
by はるぴょん (2013-12-26 22:15) 

ゆりくま

■はるぴょんさん

お返事遅くなってごめんなさい。
牛乳で温度が上がると、ジェル化よりも乳糖のカラメル化で茶色くなることを気にする方も多いですね。

タネの温度は低めの方がいいですが、ポロポロになりやすくなるなど別の失敗の原因にもなりやすいので、パーム油などの脂を多くしたり、水分を減らしたりする対策の方が無難だと思います。

ジェル化は結晶の状態の一つの種類なので、使用には全く問題ありません。
私はむしろジェル化したものの方が好みです。
by ゆりくま (2014-01-20 22:17) 

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